「ホテルの部屋みたいに、夜は落ち着いた光で過ごしたいんです」。
新築やリノベーションの打ち合わせで、ここ数年いちばんよく聞く要望です。

はじめまして、新潟市でインテリアコーディネーターをしている長谷川美緒です。
地元の工務店で10年、独立してから7年、内装や照明、カーテンの提案を続けてきました。

照明は、図面の段階では決めにくい項目です。
床材や壁紙はサンプルを手に取れますが、光は実際に点けてみるまで分かりません。
そのぶん「入居してみたら暗かった」「ダウンライトがまぶしい」という声も、引き渡し後によく届きます。

この記事では、ホテルライクと呼ばれる住まいに共通する照明のルールを3つに絞ってお伝えします。
あわせて、冬の日照が少ない新潟で、そのルールをどう調整すればいいかもお話しします。
照明の打ち合わせを控えている方は、メモ代わりに使ってください。

ホテルの照明をそのまま家に写すと、暮らしにくくなる

最初にお伝えしておきたいのは、ホテルの照明を丸ごと再現するのはおすすめしないということです。

照明メーカーの大光電機が公開している設計者インタビューで、印象に残った話があります。
ホテルの目的は「非日常性」で、住宅の目的は「日常性」だというものです。
ホテルは見せたいところを強調して明るさにメリハリをつけますが、住宅で同じことをすると、そのメリハリが「暗さ」に感じられてしまうそうです。

私の現場感覚とも一致します。
ホテルに泊まるのは長くても数日で、その間に爪を切ったり、子どもの宿題を見たりはしません。
家ではそれを毎日やります。

LIFULL HOME’Sが新築の照明の後悔をまとめた記事でも、最初に挙がっているのは「暗すぎる・まぶしすぎる」と「ダウンライトの使いすぎや配置ミス」でした。
ホテルライクを狙った家ほど、この2つが同時に起きやすいと感じています。

ですから、ここで紹介する3つのルールは「ホテルの雰囲気を借りながら、暮らしの明るさは手放さない」ための考え方です。

ルール1 光の色をそろえ、夜は明るさも一緒に落とす

ホテルの客室に入ってまず感じる落ち着きは、光の色から来ています。
白っぽい光ではなく、少し赤みのある暖かい光でそろえてあるからです。

電球色・温白色・昼白色の違い

照明の色は「色温度」という数値で表します。
単位はK(ケルビン)で、数字が小さいほど赤みがかり、大きいほど青白くなります。

日本照明工業会の用語集では、JISの区分をもとに次のように説明されています。

光色色温度の範囲代表的な値光の印象
電球色2600〜3250K2700K赤みがかったあたたかみのある光
温白色3250〜3800K3500K電球色と昼白色の中間
昼白色4600〜5500K5000Kさわやかな白い光
昼光色5700〜7100K6500K青みがかった明るい光

ホテルライクを目指すなら、リビングや寝室は電球色を基本にするのが分かりやすいと思います。

大事なのは、ひとつの部屋の中で色を混ぜないことです。
ダウンライトは電球色なのに、後から置いたスタンドだけ昼白色。
この組み合わせは、写真で見るとすぐ分かるくらい落ち着きがなくなります。

器具を選ぶときは、天井の照明だけでなく、スタンドや間接照明のLEDの色まで同じ表示になっているかを確かめてください。

色を暖かくするだけでは足りない

ここでひとつ注意があります。
電球色にしておけば夜は安心、というわけではありません。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、暖色系に調光したLEDについてのQ&Aがあります。
今のLEDは青色発光ダイオードを使っているので、暖色に調光しても短波長の光(ブルーライト)が多く含まれる、という内容です。
夜は明るすぎないように調節し、寝るときは照明を消すよう勧めています。

ホテルの夜が心地よいのは、色が暖かいうえに、明るさそのものも抑えてあるからです。
家で同じ心地よさを出すなら、色温度と明るさをセットで下げられるようにしておく必要があります。

具体的には、リビングと寝室には調光できる器具を選んでおくことです。
調光は予算調整で外されやすい項目ですが、後から付け足すと配線工事が必要になることもあります。
私は、ほかの場所の器具を一段階シンプルにしてでも、調光は残すようにお伝えしています。

ルール2 天井の1灯に頼らず、低い位置に光を重ねる

国土技術政策総合研究所の報告にもあるように、日本の住まいは部屋の真ん中に照明をひとつ付ける「一室一灯」が長く主流でした。
ホテルの客室はその逆で、天井の照明は控えめにして、スタンドや壁の照明を何か所かに置いています。

パナソニックの住宅照明計画の資料では、食事の準備、団らん、テレビ、夜更けのくつろぎといった場面ごとに照明の役割が変わるので、1室1灯では対応が難しく「1室多灯化が望まれる」と説明されています。
同じ資料には、低い色温度の光は比較的低い照度のほうが快適に感じる、という記述もあります。
電球色の光を、低い位置から少しずつ重ねる。
これがホテルの落ち着きの正体だと考えてください。

数字で見ると、天井1灯がどれだけ明るいかも分かります。
建築研究所の講演資料によれば、JISの推奨照度では居間の全般照明は50lx、団らんや娯楽は200lxです。
一方、居室用LED照明の畳数表示は、平均床面照度100lx前後を前提に設定されているそうです。
くつろぐ時間に限れば、天井1灯は明るすぎることが多いわけです。

光を重ねる位置の例を挙げます。

  • ソファ横のフロアスタンド
  • テレビボードの裏や下の間接照明
  • ダイニングテーブル上のペンダントライト
  • 飾り棚やニッチを照らす小さなスポットライト
  • 廊下や寝室の足元灯

全部をそろえる必要はありません。
リビングなら、天井とは別に2〜3か所あるだけで雰囲気はかなり変わります。

普段用の明るさは別の回路で残しておく

光を重ねるときに忘れたくないのが、日常の作業用の明るさです。

先ほどの大光電機の記事では、同じ部屋に一般的なダウンライトとグレアレスダウンライトを入れて、普段使いと演出用で使い分ける例が紹介されていました。
私も打ち合わせでは「掃除や探し物をするとき用」と「夜くつろぐとき用」を別のスイッチに分けて提案しています。

スイッチの数が増えるのが面倒なら、シーンを記憶できる調光スイッチを使う方法もあります。
ボタンひとつで「全部明るい」と「夜のくつろぎ」を切り替えられるので、家族の誰でも迷わず使えます。

ルール3 光源を見せず、壁や天井を照らす

ホテルの部屋で天井を見上げても、光っている電球はあまり目に入りません。
光源を隠して、壁や天井に当てた反射光で空間を明るくしているからです。

まぶしさのことを、照明の世界では「グレア」と呼びます。
日本照明工業会の用語集では、不快感や物の見えづらさを生じさせるようなまぶしさと説明されています。
高級感のある空間ほど、このグレアを丁寧に取り除いています。

壁を照らすと、部屋は数字以上に明るく感じられます。
パナソニックの住宅照明の解説でも、視線の先にある壁などを明るくすると、床の照度を上げるよりも実際以上の「明るさ感」が得られると紹介されています。
天井近くの壁をなでるように照らしたり、カーテンボックスの中に照明を仕込んだりするだけで、ぐっとホテルらしくなります。

寝転んだ目線でまぶしさを確かめる

引き渡し後の相談で多いのが「ソファで横になると、真上のダウンライトが目に入る」というものです。
ベッドの真上も同じです。

図面は上から見下ろして描くので、寝転んだときの目線はどうしても見落とされます。
打ち合わせのときに、ソファとベッドの位置を図面に書き込んでもらい、その真上にダウンライトが来ていないかを確認してください。
どうしても真上に必要なら、光源が奥まった位置にあるグレアレスタイプを選ぶと、まぶしさはかなり抑えられます。

間接照明だけで部屋を明るくしようとしない

間接照明は反射光なので、器具の明るさに対して部屋はそれほど明るくなりません。
間接照明だけでリビングをまかなおうとして、夜に「新聞の字が読みにくい」となった例も見てきました。

パナソニックの資料でも、間接照明はまぶしさが少なく柔らかい雰囲気になる一方、陰影が少なく平板になりやすいので、直接照明と組み合わせるよう書かれています。
間接照明は雰囲気づくりの役、明るさの確保は別の照明の役。
そう分けて考えると失敗が減ります。

もうひとつ、間接照明は照らす面の仕上げに左右されます。
光沢のある壁や床は光源が映り込みやすく、濃い色の壁は光を吸います。
照明の位置を決めるときは、壁紙や床材のサンプルも一緒に並べて見ておくと安心です。

新潟の冬は「昼の照明」まで考えておく

ここからは、新潟で家を建てる方に特に考えてほしい話です。

気象庁の平年値を見ると、新潟の1月の日照時間は56.4時間です。
同じ統計期間(1991〜2020年)の東京は192.6時間なので、新潟の1月は東京の3割に届きません。
12月も62.9時間、2月も74.3時間と少ない月が続きます。

冬の新潟では、昼間から照明を点けて過ごす日が珍しくありません。
ホテルの照明は「夜の演出」に寄せて設計されているので、そのまま取り入れると、冬の昼間に家全体がどんよりしてしまいます。

そこで私がおすすめしているのは、照明に「昼のモード」と「夜のモード」を持たせることです。

  • 昼は天井の照明も使って、部屋全体をしっかり明るくする
  • 夕方以降は天井を落として、スタンドや間接照明に切り替える
  • 調色できる器具なら、昼は温白色寄り、夜は電球色寄りにする

厚生労働省の睡眠ガイドには、日中に光を多く浴びると夜のメラトニンの分泌が増え、寝つきがよくなるとも書かれています。
冬の曇り空でも、窓辺は部屋の奥より明るいものです。
日中に過ごす場所は窓の近くに計画しておくと安心です。

日照の少ない地域だからこそ、昼はしっかり明るく、夜は落ち着いた光に切り替える。
その切り替えができることが、雪国でホテルライクを実現する条件だと私は考えています。

新潟の住宅事例で見る、光のつくり方

ルールだけだとイメージしにくいので、新潟の住宅事例もいくつか見てみます。

私は普段から、気になった住宅事例をスクラップしています。
最近よく開いているのが、新潟のハイエンド住宅や上質なインテリアを集めたアイデア帖です。
注文住宅から高級賃貸マンションまで、新潟で見つけた住まいが写真つきで紹介されていて、打ち合わせ前のイメージ集めにちょうどいい分量です。

そこで知った事例のひとつが、ハーバーハウスの幸西モデルハウスです。
公式サイトによると、32.5帖を超える吹き抜けリビングに、意匠性の高い照明や、テレビモニターの存在を感じさせないグラスルーチェを採用しています。
照明や空調はスマートフォンやタブレットで一括管理でき、外出先からも操作できるそうです。
吹き抜けのように天井が高い空間では、照明の切り替えを手元でできることが、毎日の使いやすさに直結します。

もうひとつは、HARVESTの「カーテンのいらない中庭のある家」です。
公式の紹介では、計算された窓の配置と木格子の天井が、室内に柔らかい光と風を届けると説明されています。
高い塀で外からの視線を遮っているので、大きな窓にカーテンを引かずに済む設計です。
自然光をどう柔らかく取り込むかという点で、人工照明の計画にも通じる考え方だと感じました。

こうした事例を見るときは、写真の雰囲気だけでなく「光源はどこにあるか」「壁と天井のどこが照らされているか」に注目してみてください。
自分の家に取り入れたい光が、具体的に見えてきます。

打ち合わせ前のチェックリスト

最後に、照明の打ち合わせ前に確認しておきたい項目を表にまとめました。
住宅会社や照明プランナーとの打ち合わせに持っていってください。

確認すること関わるルール見落としたときに起きやすいこと
部屋ごとの光の色がそろっているかルール1雰囲気がちぐはぐになる
リビング・寝室に調光できる器具があるかルール1夜に明るさを落とせない
天井以外に光を置く場所が2〜3か所あるかルール2一室一灯のまま明るすぎる
普段用と演出用でスイッチを分けたかルール2家事や探し物のときに暗い
ソファやベッドの真上にダウンライトがないかルール3寝転ぶとまぶしい
間接照明を照らす面の素材と色を見たかルール3映り込みや暗さが出る
冬の昼間に部屋全体を明るくできるか新潟の冬昼間から家が薄暗い

全部を一度に決めなくても大丈夫です。
迷ったときは、調光とスイッチの分け方だけでも先に決めておくと、後からの調整がずっと楽になります。

まとめ

ホテルライクな住まいの照明は、次の3つのルールでつくられています。

  • 光の色を電球色でそろえ、夜は明るさも一緒に落とす
  • 天井の1灯に頼らず、低い位置に光を重ねる
  • 光源を見せず、壁や天井を照らす

ただし、ホテルの照明は非日常のための設計です。
毎日暮らす家では、普段用の明るさを別に残しておくことが欠かせません。

新潟のように冬の日照が少ない地域では、昼は家全体をしっかり明るくし、夜は落ち着いた光に切り替えられるようにしておくと、季節を通して快適に過ごせます。

照明は、住んでから変えるのがいちばん大変な設備です。
だからこそ、図面の段階で一度、ソファに座った自分、ベッドに入った自分を思い浮かべてみてください。
その想像が、ホテルのような夜を毎日の暮らしにつなげてくれるはずです。