生産技術出身の森下と申します。
電子部品メーカーで15年、接着と封止の工程を担当してきました。

塗布装置のカタログには必ず「使用可能粘度 1〜1,050,000mPa・s」といった仕様が載っています。
ただ、この数字を見て自社材料がどのあたりに位置するのか、その場で答えられる人はそう多くありません。

mPa・sという単位を、現場の感覚に置き換えてみます。

mPa・sは「水を1とする物差し」

Pa・s(パスカル秒)は、国際単位系(SI)で粘度を表す組立単位です。
産業技術総合研究所 計量標準総合センターの国際単位系(SI)の解説でも、粘度の単位としてパスカル秒が挙げられています。

頭の「m」はSI接頭語のミリ、つまり1000分の1です。
1Pa・s=1,000mPa・sになります。

覚えておくと便利なのは、常温の水がおよそ1mPa・sだという点です。
mPa・sの数字は「水の何倍ねばいか」とほぼ同じ意味になります。

古い資料で見かけるcP(センチポアズ)は、1cP=1mPa・s。
数値がそのまま一致するので、読み替えの計算は要りません。

身近な液体に置き換えると、桁が見えてくる

エース技研が公開している粘度の目安・接着剤の種類には、20〜25℃でのおおよその値がまとめられています。

液体おおよその粘度
1mPa・s
サラダオイル60〜80mPa・s
シャンプー2,000〜3,000mPa・s
トマトケチャップ30,000mPa・s
ハンドクリーム100,000mPa・s
マスタード150,000mPa・s

10万mPa・sあたりから、自重では流れない領域に入っていくのが分かります。
高粘度対応をうたう装置が上限に掲げる100万mPa・sは、マスタードのさらに数倍という世界です。

その数字は、条件つきです

同じ材料なのに資料によって粘度の値が違う。
そんな経験はないでしょうか。

これは誰かの間違いではなく、粘度という量の性質によるものです。

かき混ぜると柔らかくなる

水や食用油のように、力の加え方に関係なく粘度が一定の液体をニュートン流体と呼びます。
一方で接着剤やグリスの多くは非ニュートン流体で、強くせん断をかけるほど見かけの粘度が下がります。

日本産業標準調査会が定めるJIS Z 8803:2011 液体の粘度測定方法でも、測定対象の量として「見掛け粘度」が規定されています。
規格の側が、条件で見かけの変わる材料を前提にしているわけです。

温度が数度変わるだけで動く

信越化学工業のシリコーンオイル KF-96の技術資料には、温度ごとの動粘度変化率が実測値で載っています。
KF-96-1,000csで25℃を1.00とすると、0℃で1.72、50℃で0.633です。

25℃から0℃に下がるだけで1.7倍以上になります。

しかもKF-96は、同社自身が「温度による粘度変化が小さい」ことを特長に挙げている製品です。
変化が小さいとされる材料でこれですから、一般的な接着剤はもっと振れると考えたほうがいいでしょう。

朝一番と昼過ぎで塗布量が変わる。
装置の不調を疑う前に、材料温度を疑う価値はあります。

カタログの対応粘度は、あくまで入口

たとえば高粘度・高フィラー入り材料に対応したディスペンサーの仕様例では、使用可能粘度が1〜1,050,000mPa・sと示されています。
ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高め、高粘度樹脂の吐出に対応した機種です。

この上限値は、候補を絞る入口としては有効です。
自社材料が10万mPa・sなら、上限20万mPa・sの機種より余裕がある、という判断はできます。

ただ、通るかどうかの最終判断には足りません。

  • 非ニュートン性なら、公称値どおりの挙動にならない
  • フィラー入りなら、粘度が同じでも摩耗や詰まりの挙動が変わる
  • 室温が管理されていなければ、季節で条件が動く

実機テストを受け付けているメーカーもありますので、選定の最終段階では活用することをおすすめします。

まとめ

  • 水がおよそ1mPa・s。数字は「水の何倍ねばいか」と読める
  • 古い資料のcPは1cP=1mPa・sでそのまま読み替えられる
  • 接着剤やグリスの多くは非ニュートン流体で、せん断条件で見かけの粘度が変わる
  • 温度でも動く。変化が小さいとされる材料でも25℃と0℃で1.7倍以上の差がつく

単位が読めるようになると、材料メーカーとも装置メーカーとも同じ言葉で話せます。
まずは自社材料の粘度値を、測定温度とセットで確認するところから始めてみてください。