自治体の業務にGIS(地理情報システム)を導入したいけれど、どんな企業に頼めばいいのか分からない。あるいは、すでに導入しているものの、ベンダーの対応に不満を感じている。そんな悩みを抱えている方は少なくないのではないでしょうか。

はじめまして、中村拓哉と申します。地方自治体の情報政策課で12年間勤務し、GIS導入プロジェクトの担当者として道路台帳や上下水道管理のデジタル化に携わってきました。現在はフリーランスのITライターとして、自治体DXや地理空間情報をテーマに記事を書いています。

この記事では、行政のデジタル化においてGIS関連企業がどんな役割を果たしているのか、そして自治体がパートナー企業を選ぶ際に何を基準にすべきかを、私自身の実務経験も交えながらお伝えします。

そもそもGISとは?行政で求められる理由

地図とデータを掛け合わせる「見える化」の仕組み

GISは「Geographic Information System」の略で、日本語では地理情報システムと呼びます。ざっくり言えば、電子地図の上にさまざまなデータを重ねて表示・分析できる仕組みのこと。国土交通省の定義では「地理空間情報を電子地図上で一体的に処理する情報システム」とされています。

GISで扱うデータは主に4種類あります。

  • 点・線・面で地物を表現する「ベクターデータ」
  • 航空写真や衛星画像から生成される「ラスターデータ」
  • 電話番号や建物名など地図に紐づける「属性データ」
  • データの出所や信頼性を示す「メタデータ」

これらを組み合わせることで、地図上にさまざまな情報を「見える化」できるわけです。

たとえば道路台帳。従来は紙の図面で管理していて、拡幅工事のたびに専門業者へ修正を依頼する必要がありました。GISを使えば、庁内の担当者が自分で地図データを更新できます。常に最新の情報を保てるうえ、外注コストも下がる。私が担当していた自治体でも、ここが導入の大きな決め手でした。

阪神・淡路大震災が転機になった

日本の行政におけるGIS活用は1980年代に始まりましたが、本格的に動き出したのは1995年の阪神・淡路大震災以降です。被災状況の把握や復興計画の立案に、地図と情報を重ね合わせる技術が不可欠だと痛感されました。

その後、2007年に「地理空間情報活用推進基本法」が制定。現在は国土地理院が事務局を担い、政府・産業界・学術機関が連携して地理空間情報の活用を進めています。2026年にはG空間EXPO2026も開催され、産学官の連携はさらに活発化しています。

加えて、総務省が推進する自治体DX推進計画でも、情報システムの標準化やガバメントクラウドへの移行が進められており、GISはその基盤技術として欠かせない存在になっています。

行政が使うGISは2種類ある

自治体で使われるGISは、大きく「統合型GIS」と「公開型GIS」の2つに分かれます。それぞれ用途がまったく違うので、ここで整理しておきます。

統合型GIS:庁内の情報を一元管理する

統合型GISは、自治体の内部で職員が使うシステムです。都市計画、道路、上下水道、固定資産税など、複数の部署が持つ地図データを共通の基盤に載せて一元管理します。

これまでは各課がバラバラに地図を管理していたため、同じ建物の情報でも部署によって微妙にデータが違う、なんてことが日常茶飯事でした。統合型GISを入れると、データの重複整備がなくなり、部署間の食い違いも解消されます。

令和4年時点で、都道府県の51.1%、市区町村の63.1%が統合型GISを導入済み。逆に言えば、まだ4割近くの市区町村が未導入という状況です。

導入済みの自治体からは、たとえば「都市計画部門と固定資産税部門が建物形状データを共用できるようになり、重複作成のコストがなくなった」という声が上がっています。地味な改善に思えるかもしれませんが、年間で見ると数百万円単位の経費削減につながるケースも珍しくありません。

公開型GIS:住民に情報を届けるツール

公開型GIS(WebGIS)は、住民がインターネット経由でアクセスできるシステムです。ハザードマップ、都市計画図、公共施設の位置情報などを、ブラウザ上の地図で誰でも確認できます。

導入済み都道府県のうち91.7%がインターネットでの情報公開を実施しており、住民サービスの向上に大きく貢献しています。デジタル庁も標準化されたモデル仕様書を公開しており、今後さらに導入が進むと考えられます。

実際の活用例としては、長野県がライチョウの生息分布を地図上で可視化する保護アプリを開発したり、北九州市が再生可能エネルギーの導入状況をマップで公開したりと、住民の生活に直結する使い方が広がっています。防災の分野では、狭山市が避難行動要支援者の把握や防災訓練にGISを活用した事例もあります。

項目統合型GIS公開型GIS
主な利用者自治体職員住民・事業者
目的庁内業務の効率化・情報共有住民への情報公開
代表的な用途道路台帳、固定資産管理、上下水道管理ハザードマップ、都市計画図、施設案内
アクセス方法庁内ネットワークインターネット

GIS関連企業が果たしている役割

「GIS関連企業」と一口に言っても、その業務内容はかなり幅広いです。ここでは主な役割を4つに分けて説明します。

データの整備・変換

GISの土台になるのは地図データです。紙の図面をデジタル化する作業、既存データのフォーマット変換、属性情報の入力など、地味ですが非常に重要な工程を担っています。

正直なところ、この工程の品質がシステム全体の使い勝手を左右します。データが不正確だと、どんなに優れたシステムを載せても意味がない。私の経験上、ここに手を抜く企業は避けたほうがいいです。

システムの開発・構築

統合型GISや公開型GISのソフトウェア開発、既存の業務システムとの連携、クラウド環境の構築なども、GIS関連企業の重要な仕事です。

行政向けGISには、世界シェア約45%を持つ米国Esri社の「ArcGIS」をはじめ、各社が独自開発したプラットフォームなど、複数の選択肢があります。最近はクラウド型のGISも増えてきており、サーバーの管理負担を軽減したい自治体にとっては有力な選択肢です。

自治体の規模や予算、既存システムとの相性を見ながら最適な構成を提案してくれる企業が理想的です。「うちの自治体にはどれが合うのか」を一緒に考えてくれるかどうかは、パートナー選びの初期段階で見極めたいところです。

測量・調査

空中写真測量やGPS測量、現地調査といった、データの「元ネタ」を作る業務です。測量で得たデータをGISに取り込むことで、より精度の高い地理情報基盤が出来上がります。

GIS開発だけを手がける企業もあれば、測量からデータ整備、システム構築まで一貫して対応できる企業もあります。後者の場合、データの取得から活用までをワンストップで任せられるのが強みです。

防災マップ・バリアフリーマップなどの専門業務

GIS技術を活かした成果物の制作も、関連企業の大事な守備範囲です。防災マップ、観光マップ、福祉マップなど、用途は多岐にわたります。

たとえばバリアフリーマップの制作では、現地でのバリアフリー調査から地図データへの反映、印刷物やWebでの公開まで、専門的なノウハウが必要になります。こうした分野では、国際航業グループの特例子会社である株式会社T.D.Sの企業情報ページにあるように、GISデータ処理や測量、バリアフリー調査を一体的に手がける企業も存在します。障害者の視点を活かした調査ができるという点で、ほかにはない独自の強みを持つ企業です。

GIS関連企業を選ぶときのチェックポイント

ここからは、実際に企業を選定する際に確認すべきポイントを紹介します。入札仕様書を書く担当者だけでなく、随意契約や企画提案を検討している方にも参考になるはずです。

行政案件の実績は十分か

GISは民間企業でも広く使われていますが、行政向けと民間向けでは求められる要件がかなり違います。

  • 個人情報保護への対応
  • セキュリティ基準の遵守(LGWAN接続環境への対応など)
  • 年度単位の予算に合わせた導入スケジュール
  • 議会説明用の資料作成への協力

こうした「行政特有の事情」を理解している企業かどうかは、過去の自治体納入実績を見れば判断できます。類似規模の自治体での導入事例を持っているかどうかは、必ず確認してください。

余談ですが、私が在職中に経験した失敗事例をひとつ。民間向けGISで高い実績がある企業に依頼したところ、年度末の検収スケジュールへの理解が浅く、納品が大幅に遅れたことがありました。技術は申し分なかったのですが、行政独自のルールを知らなかったことが原因です。実績の「質」を見ることが大切です。

データ整備からシステム構築までカバーできるか

GIS導入は「システムを買って終わり」ではありません。以下のような工程を一気通貫で対応できる企業は、プロジェクト全体の品質が安定しやすい傾向があります。

  • 既存の紙図面やデータのデジタル化
  • 地図データのフォーマット変換・クレンジング
  • GISプラットフォームの構築とカスタマイズ
  • 他システム(税務、戸籍、防災など)との連携
  • 導入後の運用・保守

もちろん、各工程に特化した専門企業と個別に契約する方法もあります。ただし、その場合は自治体側にプロジェクト管理のノウハウが求められます。人員やスキルに余裕がなければ、ワンストップで任せられるパートナーを選ぶほうが現実的です。

社会的責任や多様性への姿勢

近年、自治体の調達においても、企業の社会貢献活動や多様性への取り組みが評価項目に含まれるケースが増えています。SDGsへの対応、障害者雇用の実績、地域社会への貢献度といった観点も、選定の判断材料になり得ます。

技術力だけでなく、こうした企業としての姿勢は、長期的なパートナーシップを組むうえで無視できない要素です。とくに「もにす認定」(障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度)を受けている企業は、厚生労働省の基準をクリアした実績がある証拠なので、ひとつの参考になります。

長期的なサポート体制が整っているか

GISは導入して終わりではなく、むしろ運用開始後が本番です。

  • データの定期更新(道路、建物、土地利用の変化への対応)
  • システムのバージョンアップや脆弱性対応
  • 職員向けの操作研修
  • 問い合わせへの迅速な対応

自治体の職員は異動が多いため、担当者が替わっても安心して運用を続けられるサポート体制があるかどうかは重要です。私自身、異動で引き継いだGISの操作方法が分からず、ベンダーに何度も助けてもらった経験があります。あのときの対応が丁寧だったから、次の更新でも同じ企業を選んだ。サポートの質は、リピートにも直結します。

まとめ

行政のデジタル化が加速するなか、GISは自治体業務の基盤技術として、その重要性を増しています。データ整備、システム構築、測量、専門マップの制作まで、GIS関連企業が担う役割は広く、どの企業と組むかによってプロジェクトの成否が大きく変わります。

企業を選ぶ際は、行政案件の実績、対応範囲の広さ、社会的責任への姿勢、そして長期的なサポート体制。この4点を軸に比較検討することをおすすめします。

自治体のGIS導入に「正解のテンプレート」はありません。予算規模、職員のITリテラシー、既存システムの状況、住民ニーズ。条件は自治体ごとに異なります。だからこそ、自分たちの業務にとって何が優先事項なのかを整理したうえで、一緒に課題を解決してくれるパートナーを見つけてください。

この記事が、GIS関連企業を選ぶ際のひとつの判断軸になれば幸いです。