不妊治療の選択肢の一つとして「卵子提供」を考え始めたとき、多くの方がまず気になるのが費用ではないでしょうか。
卵子提供は高度な生殖医療であり、残念ながら健康保険の適用外となるため、全額自己負担となります。

この記事では、卵子提供にかかる費用の全体像を掴んでいただけるよう、日本と海外の費用相場、その内訳、そしてなぜ国によって金額が大きく異なるのかを分かりやすく解説します。
費用は決して安価ではありませんが、その背景を正しく理解し、ご夫婦にとって最適な選択をするための一助となれば幸いです。

卵子提供の費用総額は500万円〜800万円が目安

卵子提供を受けるための費用総額は、治療を受ける国や依頼するエージェント、プログラムの内容によって大きく変動しますが、一般的に500万円から800万円程度が目安とされています。

これは、1回の採卵から胚移植までを含んだ金額です。
アメリカなどでは1,000万円を超えるケースも珍しくありません。
一方で、台湾やマレーシアなどアジアの国々では、比較的費用を抑えることが可能です。
この金額には、医療費だけでなく、卵子を提供してくださるドナーへの謝礼金や、渡航費、滞在費なども含まれるため、高額になります。

費用の主な内訳

卵子提供の費用は、主に以下の4つの要素で構成されています。
提示される金額に何が含まれているのかを事前にしっかり確認することが、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。

費用の種類内容金額の目安
医療費採卵、体外受精・顕微授精、胚移植、各種検査など、クリニックで発生する医療行為全般の費用。200万円〜
ドナー関連費用卵子ドナーへの謝礼金、ドナーの検査費用、保険料、交通費など。100万円〜200万円
エージェンシー料ドナー探し、クリニックとの連携、通訳、滞在先手配、法律手続きなど、プログラム全体をサポートするエージェントへの手数料。100万円〜
その他経費ご夫婦の渡航費・滞在費、現地での交通費、海外送金手数料、予備費など。50万円〜

※上記はあくまで目安です。為替レートの変動によっても請求額は変わります。

注意点:費用の透明性を確認しよう
エージェントによっては、初期費用を安く見せて、後から追加費用を請求するケースも見られます。契約前には、総額でいくらかかるのか、パッケージに何が含まれ、何が含まれないのかを詳細に確認しましょう。

【国別】海外での卵子提供の費用相場を比較

日本では法整備が整っていないなどの理由から、卵子提供を希望する多くの夫婦が海外での治療を選択しています。
ここでは、日本人から選択されることが多いアメリカ、台湾、マレーシアの3カ国について、費用相場と特徴を比較します。

アメリカ:最も高額だが、選択肢が豊富

アメリカは生殖医療の先進国であり、卵子提供に関する法整備も進んでいます。
そのため、世界中から多くの人が治療に訪れます。

費用相場

アメリカでの卵子提供は、総額で700万円〜1,200万円以上と、他の国に比べて最も高額になる傾向があります。
特に、ロサンゼルスやハワイなどが人気の渡航先です。

特徴と費用の内訳

  • 豊富なドナーバンク: 人種の多様性に富んでおり、希望の条件に合うドナーを見つけやすいのが最大のメリットです。
  • 高額なドナー謝礼金: ドナーへの謝礼金は100万円以上になることが一般的で、学歴や経歴によってはさらに高額になるケースもあります。
  • 高い医療水準と実績: 最新の医療技術や設備が整っており、成功率の高いクリニックが多いとされています。
  • 法制度の整備: 代理出産など、より幅広い選択肢が法的に認められています。
  • 高額な医療費と弁護士費用: 医療費そのものが高額であることに加え、ドナーとレシピエント(卵子を受け取る側)双方に弁護士を立てて契約を結ぶため、法的手続きの費用もかさみます。

高額ではありますが、ドナーの選択肢の多さや法的な安心感を重視する方にとっては、有力な選択肢となります。

台湾:日本から近く、費用を抑えられる

近年、日本人夫婦の渡航先として人気が高まっているのが台湾です。
地理的な近さに加え、費用を抑えられる点が大きな魅力です。

費用相場

台湾での卵子提供は、総額で400万円〜600万円程度が目安となります。
アメリカと比較すると、大幅に費用を抑えることが可能です。

特徴と費用の内訳

  • 地理的な近さ: 日本から飛行機で約3〜4時間とアクセスが良く、身体的な負担や渡航費を軽減できます。
  • アジア系のドナー: 同じアジア系のドナーから提供を受けられるため、容姿などの点で親近感を持ちやすいと感じる方も多いようです。
  • 法律によるドナー謝礼金の上限: 台湾では法律により、ドナーへの支払いは「栄養費」という名目で上限が99,000台湾ドル(約45万円)と定められています。 これが費用を抑えられる大きな理由の一つです。
  • 国の管理下での治療: 卵子提供は国の法律で認められており、安心して治療を進めることができます。
  • エージェントを介さないクリニックも: クリニックによっては、エージェントを介さずに直接やり取りができる場合があり、中間マージンを削減できる可能性があります。

費用を抑えつつ、法的に整備された環境で治療を受けたい方にとって、非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。

マレーシア:比較的安価で、日本人ドナーが見つかりやすい

マレーシアも、医療ツーリズムに力を入れており、比較的安価に卵子提供を受けられる国として注目されています。

費用相場

マレーシアでの卵子提供は、総額で400万円〜600万円程度が目安となり、台湾と同程度の費用感です。

特徴と費用の内訳

  • 比較的安価な費用: 医療費や物価が比較的安いため、治療費全体を抑えることが可能です。
  • 日本人ドナーの選択肢: 在留日本人が多いことなどから、日本人ドナーを探しやすい環境にあるとされています。
  • 多民族国家: マレー系、中華系、インド系など多様な民族が暮らしており、ドナーの選択肢も比較的豊富です。
  • 英語が公用語: 多くのクリニックで英語が通じるため、コミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。
  • 法整備は発展途上: 卵子提供自体は行われていますが、アメリカや台湾ほど厳密な法整備が進んでいるわけではない点には留意が必要です。

費用を抑えたい、日本人ドナーを希望したいという方にとって、検討の価値がある国です。

日本国内での卵子提供の現状と費用

海外での治療が主流となる一方で、「できれば日本で治療を受けたい」と考える方も少なくありません。
しかし、日本国内での卵子提供には、海外とは異なるいくつかの課題が存在します。

日本の法律とガイドライン:なぜ海外を選ぶ人が多いのか?

2025年現在、日本には卵子提供を直接規制する法律はありません。
しかし、日本産科婦人科学会などの関連学会が定めたガイドラインに基づいて、非常に限定的な範囲でのみ実施されているのが現状です。

  • 対象者の制限: 国内での卵子提供は、早発卵巣不全や、がん治療などで卵巣を摘出したなど、医学的な理由で自身の卵子を持てない既婚の夫婦に限られています。加齢による卵巣機能の低下は、原則として対象外です。
  • 匿名の無償提供が原則: ドナーは匿名かつ、無償(ボランティア)であることが基本です。 交通費などの実費は支払われますが、海外のような謝礼金はありません。
  • ドナー不足: 上記の厳しい条件のため、ドナーになってくれる人が極めて少なく、希望しても治療を受けられるケースは非常に限られています。

こうした背景から、治療の選択肢を求めて、多くの夫婦が海外に渡航しているのです。

国内での卵子提供の費用と課題

もし国内で非営利団体(NPO法人など)を通じて卵子提供を受けられた場合、費用は100万円〜200万円程度が目安となります。
海外渡航費や高額な謝礼金がないため、費用は大幅に抑えられます。

しかし、前述の通りドナー不足は深刻で、治療開始まで何年も待機しなければならないケースがほとんどです。
また、体外受精自体は海外の提携クリニックで行う必要がある場合もあり、その場合は別途渡航費などが発生します。

親族・知人からの提供という選択肢

姉妹や友人など、親族や知人から卵子を提供してもらうという方法もあります。
この場合、ドナー探しの必要がなく、謝礼金も発生しないため、費用は体外受精にかかる実費のみ(50万円〜100万円程度)に抑えられる可能性があります。

ただし、この方法には倫理的な課題や人間関係の複雑さが伴います。
提供者と子どもの関係性、将来子どもに出自をどう伝えるかなど、非常にデリケートな問題を家族間で十分に話し合い、合意形成を図る必要があります。
また、対応してくれる医療機関も限られています。

なぜ日本と海外で費用が大きく違うのか?3つの理由

ここまで見てきたように、卵子提供の費用は日本と海外、そして海外の中でも国によって大きく異なります。
その主な理由は、以下の3点に集約されます。

理由1:ドナーへの謝礼金(報酬)の有無と金額

最も大きな違いは、卵子を提供してくれるドナーへの謝礼金の扱いです。

  • 海外(特にアメリカ): 卵子提供はドナーの身体的・時間的負担に対する「報酬」と見なされ、高額な謝礼金が支払われます。 相場は50万円〜100万円以上で、これが費用総額を押し上げる大きな要因となっています。
  • 海外(台湾など): 法律で謝礼金の上限が定められている国もあり、費用を抑える要因になっています。
  • 日本: 商業的な卵子提供は認められておらず、あくまで「無償のボランティア」が原則です。 これが国内での費用が安い最大の理由ですが、同時にドナー不足の原因ともなっています。

理由2:法整備と医療インフラの違い

各国の法制度や医療を取り巻く環境も、費用に影響を与えます。

  • 法整備が進んでいる国(アメリカなど): 弁護士による契約書の作成など、法的手続きが必須となり、その分の費用が発生します。 一方で、法的な親子関係が明確になるというメリットもあります。
  • 医療費の水準: そもそも各国の医療費の水準が異なります。アメリカのように自由診療の医療費が非常に高額な国では、卵子提供の費用も高くなります。
  • 国の規制: 台湾のように国が制度を管理し、費用の上限を設けている場合もあります。

理由3:エージェントの介在とサポート内容

海外で卵子提供を受ける場合、現地のクリニックやドナーとの橋渡し役となるエージェント(仲介会社)を利用するのが一般的です。

エージェント料は100万円以上になることも珍しくありませんが、その費用には以下のような多岐にわたるサポートが含まれています。

  • ドナー候補者のリクルートと情報提供
  • クリニックの選定と予約
  • 医療通訳の手配
  • 法律家との連携
  • 渡航や滞在に関するサポート

エージェントによってサポート内容や費用体系は様々です。
どこまでのサービスが含まれているのかを比較検討することが、総費用を把握する上で重要になります。

実際にエージェントを選ぶ際には、費用だけでなく、過去の実績やサポートの質を見極めることが不可欠です。SNSなどで利用者の生の声をリサーチするのも一つの方法であり、例えばInstagramでモンドメディカルの評判に関する投稿を見てみると、様々な体験談が見つかるかもしれません。

このように、信頼できるエージェントを見つけることが、海外での卵子提供を成功させるための重要な鍵となります。

費用以外に知っておきたい卵子提供の重要ポイント

費用は卵子提供を検討する上で非常に重要な要素ですが、それだけで決断すべきではありません。
後悔のない選択をするために、費用以外の側面からも総合的に考える必要があります。

成功率と費用対効果の考え方

卵子提供の成功率は、一般的な不妊治療に比べて高いとされています。
これは、若く健康な女性から提供された質の良い卵子を用いるためで、レシピエントの年齢に大きく左右されないのが特徴です。

一般的に、胚移植1回あたりの妊娠率は50%〜70%程度と報告されています。
ただし、これはあくまで統計上の数値であり、必ず成功が保証されるわけではありません。

費用が安いという理由だけで国やクリニックを選ぶのではなく、公開されている成功率のデータや医療の質も考慮し、「費用対効果」という視点で検討することが大切です。

追加費用が発生するケース

最初に提示された見積もり以外に、追加費用が発生する可能性も念頭に置いておく必要があります。
代表的なケースは以下の通りです。

  • 2回目以降の胚移植: 1回目の移植で妊娠に至らなかった場合、凍結保存しておいた余剰胚を移植するための費用(数十万円)が別途かかります。
  • 着床前遺伝子検査(PGT-A): 受精卵の染色体に異常がないかを調べる検査で、希望する場合はオプション費用(数十万円)が必要です。
  • ドナーの交代: マッチングしたドナーが、健康上の理由などで途中でプログラムを続けられなくなった場合、再度ドナーを選び直すための費用が発生することがあります。
  • 渡航・滞在の延長: 治療スケジュールの変更などにより、現地での滞在が長引いた場合の追加滞在費。

精神的・身体的負担も考慮に入れる

金銭的な負担に加え、精神的・身体的な負担も決して小さくありません。

海外での治療は、慣れない環境でのストレスや言葉の壁、長期間の滞在による仕事への影響などが考えられます。
また、卵子提供という選択肢そのものに対する葛藤や、夫婦間での意見の相違など、精神的なケアも非常に重要になります。

費用だけでなく、ご夫婦の年齢、仕事の状況、体力、そして何よりも「どのような形で子どもを迎えたいか」という気持ちを大切に、総合的に判断することが求められます。

まとめ:自分たちに合った選択をするために

卵子提供の費用は、選択する国やプログラムによって400万円から1,000万円以上と大きな幅があります。
その背景には、ドナーへの謝礼金の考え方や各国の法制度、医療水準の違いなど、複雑な要因が絡み合っています。

国・地域費用相場メリットデメリット
アメリカ700万〜1,200万円ドナーの選択肢が豊富、法整備が万全費用が非常に高額、日本から遠い
台湾400万〜600万円日本から近い、費用を抑えられる、法整備ありドナーの選択肢はアジア系中心
マレーシア400万〜600万円費用が比較的安い、日本人ドナーの可能性法整備が発展途上
日本国内100万〜200万円費用が安い、渡航の負担がないドナーが極端に少なく、待機時間が長い

この記事でご紹介した費用や情報は、あくまで一般的な目安です。
最終的な決断を下す前には、複数のエージェントやクリニックから詳しい情報を集め、それぞれのメリット・デメリットを十分に比較検討することが不可欠です。

費用という現実的な問題と向き合いながらも、ご夫婦が心から納得できる道を選べるよう、この記事がその一助となれば幸いです。